2019年2月9日土曜日

『ファースト・マン』

★★★★☆

アポロ計画を描いた映画としては、トム・ハンクスが主演した『アポロ13』が大好きです。あれは、月面着陸というミッションは失敗しますが、次々と起こるトラブルを宇宙飛行士と地上クルーの努力で乗り切るという内容で、失敗したミッションを取り上げたところに大きな価値があると思っています。

『ファースト・マン』はアポロ11号で人類初の月面着陸を成功させたニール・アームストロングが主人公なので、これを普通にハリウッドが映画化したら、人類の偉業、科学の勝利、勇敢なる英雄、アメリカの誇り、…といったキラキラした作品にしかならないはず。ただ、そこは『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督なので、さぞかし違う切り口の作品なのだろうという期待がありました。

結果としては、アポロ11号をテーマに、よくここまでネガティブな雰囲気漂う作品にしたなあという出来栄えでした。NASAの仕事では、時には生死に関わるほどの非常に厳しい訓練、事故による仲間の死、マスコミや世間からのバッシング、プライベートでは、娘の死、生きて帰れる保証のない仕事に取り組むことから来る家族との微妙な関係と、アポロ計画が語られるとき、普通ならあまり強調されないネガティブな要素を淡々と描写していきます。
逆に、月面着陸を実現させることが技術的にいかにすごいことなのかは、ほとんど表現されません。

主人公は、すべてを飲み込んでミッションに取り組み、家族と接している感じで、ほとんど感情を表現しないので、何を考えているのかはよくわかりません。本物のニール・アームストロングがこういう人だったのか、この作品用に作られた人物造形なのか、たぶん後者のような気がします。

あとは、手持ちカメラを多用しているのか、かなり画面がフラフラと揺れるのが印象的。ロケットの発射の際の船内の振動も思い切り画面を揺らします。でもそこがドキュメンタリーやニュース映像のようで生々しく、リアルに感じられます。
音も、ロケット噴射やその振動でガタガタ、ギシギシと大きな音をたてたかと思うと、宇宙空間ではまったくの無音になったり、かなり極端に変化します。
こういったカメラや音の使い方も新鮮で、生々しさやロケットに乗ることの恐怖感、宇宙の異世界感などを強く印象づける効果につながっているように思いました。

細かいところですが、序盤にモハーヴェ砂漠が登場します。私はMacユーザーなので、macOS MojaveのMojaveだとすぐにわかりました。

字幕監修は、日本人宇宙飛行士の毛利衛さんでした。

公式サイトは、こちら。
https://firstman.jp

2019年2月6日水曜日

『マスカレード・ホテル』

★★★☆☆

原作は読んでいません。

ホテルを舞台にした有名な映画やテレビドラマはいくつかあると思うのですが、主に宿泊客の人生に光を当てた人間ドラマといった体裁になることが多いように思います。
一方で、殺人事件の犯人探しを楽しむエンターテインメントがミステリー。
そのいいとこ取りをしたような作品でした。

たくさんの怪しい宿泊客のエピソードは、実は犯人探しとは何の関係のない場合もあって、そうした"ノイズ"をたくさん加えて観客を混乱させるのは、ミステリーとしてはちょっとアンフェアな気がします。これで、ミステリーとしての骨格がいい加減だったら納得できないところですが、本作の場合はちゃんとしていたと思います。
だとしたら、もっとノイズを減らして、ミステリーとしての骨格だけで勝負してもよかったのではないかと思ってしまいます。原作はどのようなバランスなんだろう??

木村拓哉くんは「どんな役を演じても木村拓哉」と揶揄されることがありますが、最近の演技は"木村拓哉"を抑え気味な気がしますが、周りからは若い頃の"木村拓哉"を期待する声もあるのでしょうから、さぞかし大変だろうと思います。個人的には、何年間か表舞台に出るのをやめて、ビジュアル的にも内面的にも完全におじさんになってから脇役で復帰したりすると評価されそうな気がしますが、彼の場合それは許されないのでしょうね。

最後に、木村拓哉演じる刑事と長澤まさみ演じるフロントクラークが恋愛関係に進展するような雰囲気のるシーンがありましたが、私はこの作品に恋愛はなくていいと思いました。


公式サイトは、こちら。
http://masquerade-hotel.jp