2019年8月24日土曜日

『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』

★★★★☆

最近日本で上映されるインド映画は、本当にどれもクオリティが高いと思いますが、この作品もまたとてもよかったと思います。

戦争モノで、格闘アクションの迫力がウリという点では『バーフバリ〜』と同じカテゴリーに入るような気がしますが、『KESARI〜』の方は史実に基づいており、時代も1897年なので比較的最近です。
一応銃や爆弾といった近代的な武器も出てきますが、最後は弾薬が尽きて刀剣で闘うので、結局『バーフバリ〜』と一緒と言えば一緒。それぞれの作品の企画制作のタイミングはよくわかりませんが『バーフバリ〜』の大ヒットを受けて、時代設定を変えて似たような作品を狙って作ったのかも、などと勘ぐってしまいます。

主人公のイシャル・シンは、これぞ漢というカッコいいヒーローとして描かれています。ちょっと出来過ぎているので「史実に基づいたフィクション」の「フィクション」の部分なのかもしれません。
このイルシャル・シンを演じているのは『パッドマン 5億人の女性を救った男』の主人公を演じた俳優さんだそうですが、そう言われても同一人物だと思えないほど印象が違います。

敵は、インドに攻め込んでくるパシュトゥーン人ですが、彼らはアフガニスタンに住むイスラム教徒なので、どうしても今中東を騒がせている人たちをイメージしてしまいます。インド映画は勧善懲悪が多いので、敵はトコトン悪い奴として描かれていました。
一応映画の最初に「特定の団体を非難するものではない」という趣旨の表示がありましたが、ちょっと心配になってしまいました。

人間の死に様の美学のようなものを描く作品は洋の東西を問わず多々あると思いますが、この作品のようなインド映画を観ると、どこかアジア的というか、日本の感覚に通じるものがあるような気がします。いい悪いは別として。

21名で1万人に立ち向かったサラガリの戦いは、インドでは有名な歴史上のできごとなのかもしれませんが、当然私はまったく知りませんでした。日本人だと、戦国時代の戦とか忠臣蔵とか幕末の動乱などは多くの人が知っているでしょうが、これらを知っている外国人が多いとは思えません。
そのようなアジアのごく局地的なできごとをテーマにした映画作品を日本で観ることができ、心を動かされるというのも不思議な体験だと思います。


公式サイトは、こちら。
http://kesari-movie.com

2019年8月12日月曜日

『シークレット・スーパースター』

★★★★☆

本当は歌手になることを夢見ているにも関わらず、厳格な父親にギターや歌を禁じられた少女が覆面シンガーとしてYouTubeに自作の歌を投稿して、それが評判になって…というストーリーのインド映画。このような作品紹介を読んだ時点で、観に行きたいと思っていました。
ちなみに、以前ネットのどこかで、実話を基にしていると書いてあったような気がしていましたが、あらためてネットを見てもそのような情報は見つかりませんでした。

実際に観てみると、ストーリーはとてもシンプルなサクセスストーリーで、笑わせどころ、泣かせどころもうまく出来すぎているあたりがちょっとハリウッド的な気もしました。でも、見事なまでの父親のモラハラっぷりや、覆面シンガーとして演奏するときにイスラム教徒の女性が被るブルカを使うなど、やはりインドならではと感じさせる要素が多々ある映画だと思います。

インドのスーパースター、アーミル・カーンが制作に関わっており、めちゃくちゃチャラい落ち目の音楽プロデューサーとして出演もしています。この演技が、チャラいのに真面目で誠実で、絶妙なバランスの魅力的な人物像を作り上げていました。
ただこの人、とんでもなくマッチョな肉体の持ち主。個人的にはチャラい音楽プロデューサーはもうちょっと不健康そうなイメージなので、そこだけはちょっとギャップを感じました。

主人公のインシアを演じたザイラー・ワシームさんはみずみずしい少女の顔を見せる瞬間もあれば、完全に肝っ玉母ちゃんのように見える瞬間もあり、ちょっと興味深いキャスティングだと思いました。まあ非の打ち所のない美少女よりリアリティがあるような気もします。

こういう作品は、主人公の歌声に説得力がないとガッカリしてしまうものです。そういう意味では、充分素晴らしい歌唱だとは思いましたが、世界中から賞賛されるほどの歌声というにはもうひと頑張りだったかもしれません。
インド映画の場合、登場人物の歌唱シーンでは基本的に本人は歌わず別の歌手の歌声に合わせた口パクだと聞いたことがあります。この作品の場合はどうなのか、気になりました。

そして、インド映画につきもののダンスシーンは、本編ではまったくありません。主人公が歌う歌もバラードなのでダンス向きではありません。最近ではダンスシーンのないインド映画も増えてきたので特に気にしていませんでしたが、最後のエンディングでチャラい音楽プロデューサー、アーミル・カーンが踊りまくっていました。

インド映画は上映館数が少ないので、好きな人が集まってくる傾向にあるのですが、それにしても新宿の映画館は大盛況でした。今年は、夏から秋にかけて面白そうなインド映画が続々公開されるので、毎回こんな感じなのかも。


公式サイトは、こちら。
http://secret-superstar.com

2019年8月10日土曜日

『ライオン・キング』

★★★★☆

何年か前の実写版『ジャングル・ブック』は主人公の男の子以外全てCGでしたが、今回の『ライオン・キング』はついに全てCG。それを実写と呼んでいいのか?と思っていたら宣伝文句としては「超実写版」と呼んでいました。ものは言いようですね。

3DCGアニメーションは、どのように分類すべきなのでしょう?直感的には、今回の『ライオン・キング』のような現実の見え方を徹底的に再現して実写と区別がつかないような絵を作る写実志向型、ピクサーなどのように3Dデータを立体的にレンダリングして絵は作るものの、造形的には誇張やデフォルメされている3Dマンガ的なもの、日本のアニメでよくやられているように3Dデータを使っているものの手書きセルアニメを思わせる線画として表現するセルアニメ風のものの3つぐらいに分けると理解しやすいような気がします。

実は少し前に、以前テレビ放送を録画していたアニメ版をたまたま観ていたのですが、超実写版のストーリーはアニメ版にかなり忠実で、シーンによってはカット割りまで同じなのではないかと思うほどでした。それがいちいち実写的な映像に置き換わっているので、映像製作技術の観点で比較してみると相当面白いのではないかと思います。

アニメ版は、確か当時の職場の同僚たちと横浜の映画館で観たのだったと思います。懐かしい。あのときは、手塚治虫の『ジャングル大帝』とあまりに類似点が多くパクリではないかとメディアも含めて騒動になりました。私自身も偶然の一致というには無理があるほど似ていると思いましたが、手塚プロダクションが問題としないとコメントして沈静化しました。
あれから25年、劇団四季のロングランミュージカルなどもあり、完全に『ライオン・キング』が定着しており、パクリ疑惑のことなどまったく知らない人も多いのでしょうね。

星4つとしましたが、その大部分は映像技術に対する評価です。


公式サイトは。こちら。
https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html

2019年8月3日土曜日

『アルキメデスの大戦』

★★★☆☆

映画やドラマなどで、"理系人間"や"理系的思考"を描くのは相当難しいのだと思います。大体の数学や物理の天才といえばお決まりのごとく変人として描かれ、何でも数式に置き換え、人の言うことを聞かず、自信過剰で、アイデアを思いつくと一心不乱に数式を書き始めたりします。典型的なのはTVドラマの『ガリレオ』でしょうか。私は、あのステレオタイプ的な表現はかなり嫌いです。

本作の主人公は数学の天才ですが、前半では、美しいものは測らずにいられないとあちこちメジャーで測りまくるなど、お決まりの描写でちょっとがっかりしました。
でも、後半は計測するなどという表面的な問題ではなく、どうやって限られた情報から解を得るかという論理的思考の問題にシフトしていき、やっと面白く見られるようになりました。
つまらない変人描写などやめて、前半から論理的思考という切り口で描けば、もっと重厚で深い作品になった気がします。

戦艦大和などのCGは期待どおりで、もっと見たいと思いましたが、基本的に戦艦大和建造前の話なので仕方がないですね。


公式サイトは、こちら。
https://archimedes-movie.jp

『天気の子』

★★★☆☆

映像表現としては期待どおり非常に美しいと思いました。

あとは、設定とか登場人物の性格とかストーリー展開とかが、自分にはどうもピンと来ませんでした。

例えば、異常気象で雨が降り続く東京という設定もなんだか唐突で、どこかの段階で状況が変わるのかと思っていたら特にそういうこともなく、それが予想外といえば予想外でしたが、映画を見終わってもモヤモヤが残りスッキリ晴れない感じでした。

主人公は、どちらかというと気が弱そうな16歳の男の子で、キャラクターデザイン的にも穏やかで大人しそうなイメージに造形されていると思います。でもその行動を見ると、何の根拠もなく周りの人間を味方と敵に分けて、味方でなければあとは全部敵と言わんばかりにひたすら抵抗し反発して逃げ回ります。非常に短絡的、衝動的で感情の起伏が激しく変化します。それが若さと言えば若さなのかもしれませんが、おっさんとしては何をそんなにつんのめっているのかと思ってしまいました。
まあ『未来少年コナン』とかと似たようなものかもしれませんが、舞台がリアルに描かれた新宿の街だけに、その無謀な行動が単なる犯罪的行為にしか見えませんし、彼がそこまでする理由がわかりません。
登場人物に感情移入できないまでも、行動原理として納得できないと、その作品を見てよかったとはなかなか思えません。

主人公とヒロインの声優さんはオーディションで選ばれた方のようですが、とてもよかったと思います。
最近の大作アニメ映画は、有名な俳優さんばかりを起用する傾向がありますが、なぜかこの作品は野沢雅子さんをはじめとする有名な声優さんがちょっとだけ登場しています。個人的には、いいことだと思います。


公式サイトは、こちら。
https://tenkinoko.com