2019年11月17日日曜日

『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』

★★★★☆

簡単に言うと、盲目のフリをしていたピアニストが、殺人事件を目撃してしまったことをきっかけに事件に巻き込まれていくという作品です。

おそらくインドの映像作品にもミステリーやサスペンスといったジャンルのものがあるとは思うのですが、これまで私が観た作品で、その手のものは思いつきません。

映画の後半は、主人公が命を狙われることになり、そこから逃げまくるのですが、敵と味方が目まぐるしく入れ替わって、非常に忙しい展開。なんだかワンクールの連ドラを観たような感覚でした。正直、映画を観終わった直後でも細かい展開を思い出せませんでした。

このストーリー展開なら、本当にシリアスな作風にすればかなり恐怖を感じさせるサスペンスになると思うのですが、役者の演技がどこかコミカル。公式サイトなどでは「ブラックコメディ」と表現しており、まあ他に言いようがないとも思いますが、なんだか不思議な空気感だと思いました。
今度は、完全にシリアスなインドのサスペンスも見てみたいかも。

『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』は邦題で、原題は『Andhadhun』。残念ながら、意味はわかりませんでした。

星は、3.5ぐらいが適当かもしれませんが、インドのサスペンスが新鮮だったので、ちょっとおまけして4つにしました。


公式サイトは、こちら。
http://m-melody.jp

2019年11月2日土曜日

『ロボット2.0』

★★★☆☆

私が初めて観たインド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』の主役にしてインドのスーパースター、ラジニカーントの出演作で、10年ぐらい前に日本でも公開された『ロボット』という作品があり、その続編が今作です。

インド本国におけるラジニカーントの立ち位置はよくわからないのですが、彼のビジュアルはどこか垢抜けないおっさんなので、勝手にコメディ俳優のように見てしまいます。『ムトゥ 踊るマハラジャ』はドラマの舞台が田舎なのでピッタリなのですが、SF作品とはあまり馴染まない印象です。

そんな中、さらに年齢を重ねたラジニカーントが出演するSF作品『ロボット』は本当に衝撃的でした。ストーリー展開はハチャメチャですが、映像は綺麗になりCGはかなり本格的。やっぱりラジニカーントがSFの世界観の中では違和感がありますが、ハチャメチャな表現の一要素だと思えばアリだと思いますし、彼が元気に頑張っている姿は愛おしくもあります。
そして、A.R.ラフマーンの音楽は『ムトゥ 踊るマハラジャ』のときからマサラ・テクノとでも言うようなユニークなものでしたが、『ロボット』では、その特徴はそのままに技術的に大幅進化した印象でした。

で、今作『ロボット2.0』ですが、傾向としては『ロボット』とまったく同じだと思います。ただそれは、逆にいえば『ロボット』を見た人にとっては、それ以上の衝撃ではないということになります。良くも悪くも、そういったパート2の壁を感じました。

最近のインド映画は多様化しており感動作品も多いので、ただ「楽しけりゃ何でもいいじゃん」的な作品がむしろ目立たない傾向にあるかもしれません。そういったインド映画を知らず、前作の『ロボット』も観ていない人にとっては衝撃的だと思うので、観てみてもいいかもしれません。

また、今作の音楽もA.R.ラフマーンが担当しているのですが、私の印象ではちょっとマサラ色が弱まった気がしました。最初は、音楽担当が別の人に変わったのかと思ってしまいました。より洗練された、グローバルな音楽になったという捉え方もあるかもしれませんが、個人的にはもっとこってりマサラ感のある音楽を期待していました。


公式サイトは、こちら。
https://robot2-0.com

2019年10月20日日曜日

『見えない目撃者』

★★★★☆

Facebookで繋がっている先輩がこの作品について投稿しており、ネットでは中々評価が高いようなので、急遽観に行きました。

内容は、かなりシリアスでハードなサスペンス。
最大のキモは、事件の目撃者が視覚障害者だということ。オリジナルは、色々と設定が違うようですが、韓国映画のようです。

視覚障害者が目撃者というアイデアは、単に作品を面白くする狙いなのか、視覚障害というものを知ってもらう意図があるのかは不明ですが、音声フィードバックを用いた視覚障害者用の文字入力ツールや、盲導犬、スマートフォンの動画チャット機能を使った遠隔地からの支援など、結果的に視覚障害者の生活の一端を見せてくれています。

吉岡里帆さんというと明るく溌剌としたキャラクターのイメージなので、本作の役はもっとピッタリくる別の女優さんがいそうな気もしますが、少なくとも作品を見ている間違和感はなかったので、頑張っていたと思います。

作中の猟奇殺人事件がかなり残虐でR15指定なのですが、もうちょっとマイルドでも作品のコアとなる面白さは表現できたような気はします。

この作品を観ようと思った理由は実はもう一つあります。もうすぐ公開されるインド映画『盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲』を観にいくつもりなのですが、こちらは、盲目のふりをしたピアニストが殺人事件を目撃してしまうというものです。実際には目が見えているだけに設定としてはさらに複雑で、ブラックコメディということなので、作品のトーンとしては、本作とはまったく違うと思います。その違いを確かめてみたかったので、『見えない目撃者』を観ておこうと思いました。


公式サイトは、こちら。
http://www.mienaimokugekisha.jp

『ガリーボーイ』

★★★★☆

ちょっと前に観た『シークレット・スパースター』と、ストーリーの基本骨格が似ています。勝手に、同じ企画から派生した姉妹作品のようなつもりで観ていました。

両方とも、貧困層の若者が音楽で成功していくサクセスストーリーで、家族に夢など見ずに現実的に生きるべきと反対されたり、親に内緒で動画をSNSにアップして評判になったり、最終的に賞をもらうなども共通しています。作品タイトルがSNSにアップするときのハンドルネームという点まで同じです。

ただ、『シークレット・スパースター』の方は、主人公が女子中学生であるのに対して『ガリーボーイ』は男子大学生。あとは、同じ音楽といっても前者は歌い上げる感じのボーカリストで、後者はラッパー。として作品全体のトーンとして前者が明るくコミカルな演出も多いのですが、後者は暗くシリアスな印象に仕上がっています。

これだけの違いで『シークレット・スパースター』はエンターテインメント作品、『ガリーボーイ』は社会派っぽくなるから不思議です。きっと、アカデミー会員は『ガリーボーイ』の方を好むと思います。

こういう映画は、作中のラップが本当にイケてないと説得力がないと思います。残念ながら、私はラップという音楽ジャンルにほとんど馴染みがないので、この点はよくわかりませんでした。

また、ラップはやはりリリックが重要だと思うので、日本語の字幕スーパーになってしまう時点で相当不利なんだろうと想像してしまいます。本作の字幕監修としていとうせいこうさんがクレジットされており、ラップのリリックの"らしい"翻訳に協力しているようです。その出来映えも私にはわかりません。

ラップの発祥はアメリカなのでしょうか。勝手に、貧困や差別、反社会的、反体制的な思想と強く結びついているイメージがありますが、インドのスラムのイメージとまさにピッタリなので、親和性は高いのでしょう。

ちょっとビックリしたのは、主人公がスラムの仲間にそそのかされて自動車の盗難に手を染める描写です。作中では、仲間だけが警察に捕まりますが主人公が共犯であることを秘密にするので、表沙汰になることなく済むのですが、昨今の日本の風潮だと、サクセスストーリーの裏で主人公の過去の犯罪が隠蔽されるという終わり方はどうなの?と問題になりそう。インドでは、そんなに引っかかる人はいないのでしょうか。
しかもこの作品、実話に基づいているので、主人公のモデルとなった実在のラッパーがいます。なので、なおのこと複雑。


公式サイトは、こちら。
http://gullyboy.jp

2019年10月14日月曜日

『空の青さを知る人よ』

★★★★☆

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』のスタッフのよる作品。

『あの花』は、ずいぶん後になって再放送を何となく観た程度ですが、『ここさけ』は映画館で観てよかったので、『空青(?)』も観てみることにしました。

結果的には、とてもよかったと思います。
お約束のように日常生活を丁寧に描く中、非現実的な超常現象の設定がちょっとだけ入っています。個人的には、こういう設定は好みではありませんが、だからと言って作品全体を否定してしまうのはもったいないと思います。

主人公のあおいは高校生で、自己表現が下手で素直じゃなくて、勝手に決めつけて突っ走るタイプで、ある意味いかにもなキャラクター。世界観は全然違いますが、若さのそういった側面を描いているという点では新海誠監督の『天気の子』と共通している気がします。
私の中では『空青』の方がすんなり受け入れられる気がします。でもたぶんセールス的には『天気の子』にはかなわないのでしょうね。何がどうウケるかは、本当にわからないものです。

『天気の子』と言えば、精密でリアルでキラキラした背景が印象的ですが、本作の背景も相当頑張っていたと思います。一瞬写真かと思うほどリアルに描きこまれたものもあり、もしかしてちょっと新海誠作品を意識しているのではないかと勘ぐってしまいました。でも不思議なもので、同じリアルでも新海作品のリアルとはどこか違う印象でした。やはり絵には個性が出るものですね。

声の演技は、松平健さんはわかりましたが、吉沢亮さん、吉岡里帆さんはエンディングを見るまでわかりませんでした。吉岡さんがあおい役ではなく、そのお姉さんのあかね役なのも意外。もしかして、役の順位的にはあかねの方が上なのでしょうか。
あかねの声はほんわか、おっとりした印象で、声優さんだとばかり思っていました。


公式サイトは、こちら。
https://soraaoproject.jp

2019年10月5日土曜日

『ジョーカー』

★★★★☆

残念ながら映画館では観ませんでしたが、クリストファー・ノーラン監督のバットマン3部作はネット配信で観て、あの重たい世界観は印象に残りました。その中で、ヒース・レジャー演じるジョーカーはとても不気味でした。
本作はジョーカーが主人公で、しかもバットマンが出てこないということは、全編重苦しく狂気に満ちているということになります。なので、直前まで観るつもりではなかったのですが、あまりにも前評判がいいので、観てみることにしました。

観てみた結果は、ある意味予想どおり、本当に何の救いもない世界でした。ジョーカーだけが、というよりは、ゴッサムシティ全体が陰鬱で市民の不満がくすぶっていて、社会秩序も個人個人のモラルもすでに崩壊しかかっている状態で、ジョーカーは市民の不満爆発の引き金に過ぎないような感じでした。

ホアキン・フェニックスの演技は素晴らしい。というか、彼の演技なくしてはこの作品は成立しないと思います。笑い方や動作がちょっと奇妙で不気味さを秘めているのですが、もはや脚本では表現できない部分であり、彼の演技によって足されたものだと思えるので。

本作は日本ではR15指定で、アメリカでも映画館が子供に見せないように異例の呼びかけをしたと聞きます。決して暴力や犯罪を奨励しているわけではないでしょうが、この状況に陥ったら犯罪に走るのも仕方がない、と思えてしまうような危険性はあると思います。
まだ、あのバットマンのあのジョーカーの話なので、フィクションとして済まされますが、これが普通の犯罪者の話だったらもっとヤバいかも。
とりわけ今の時代、社会がやや不安定なムードを醸し出しているので、作中のゴッサムシティのようなことが、現実にも起こりうるような気がしてしまいます。

この世界観の映画としての完成度は極めて高いと思うのですが、そもそも私はこういった作風があまり得意ではないこと、観ていてシーンの繋がりやストーリーの展開が一部よくわからない部分があったことなどもあって、★4つとしました。

初日とはいえ、レイトショーなのにお客さんがたくさん入っていました。こういうトーンの作品ではかなり珍しいと思います。

公式サイトは、こちら。
http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

2019年9月29日日曜日

『ホテル・ムンバイ』

★★★★☆

日本で上映されるインド映画は面白いものが多いので好んで観ています。『ホテル・ムンバイ』は、オーストラリア・アメリカ・インド合作で純インド産ではありませんが、なかなか評価も高いようなので、観てみることにしました。

この作品は2008年にムンバイで実際に起こった同時多発テロを扱った作品です。この事件はもちろん日本でも報道されましたが、日本の場合、通常のニュースメディアでは日本が直接関わらない海外のニュースは詳しく取り上げない傾向があるため、詳細は知りませんでした。
ただ、イスラム系のテロリストの活動範囲がアジアをどんどん東へ移動してきて、そのうち日本に到達するんじゃないかと恐怖を感じたこともあり(時系列的にどちらが先か覚えていませんが、バングラディシュやインドネシアでもテロ事件があったので)、当時の報道のことは意外とはっきり記憶しています。

緊迫感がすごい作品でした。この感覚は『アルゴ』と似てる気がします。

事件発生時のホテルマンの働きを"名もなき英雄"とたたえているようですが、私はそういう印象ではなありませんでした。もちろん何とかしようとできる限りのことをしていますが、武器を持っているわけでも格闘術に長けているわけでもないので、基本的には逃げるか隠れるかしかできません。言うことを聞かない客が勝手な行動を抑えることもできないし、後から見れば判断ミスだと思えることもしています。でも実際にテロの現場に出くわしたときに、そんなに都合よくヒーローが現れるわけもないので、これが現実なんだと思います。

この手の作品は群像劇のドラマの作り方として、何人かの人にフォーカスを当てつつストーリーが展開するものです。そうなると、観ている側は「この人とこの人は結局助かるんだろうな」と予想がついてしまうものですが、本作ではその予想を裏切る展開があってびっくりしました。あれは狙いなのでしょうか。

テロリスト側のテロ実行中の言動も結構描写されています。彼らの生い立ちなどについては直接描かれてはいませんが、その言動からある程度垣間見ることはできます。観てる側としては、「どうしてこんな人間になってしまったんだろう?」と悲しい気持ちになりました。

公式サイトは、こちら。
https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/

『記憶にございません!』

★★★☆☆

三谷幸喜監督の映画作品はひととおり観ており、今回の作品も最初から観にいくことは決めていました。

三谷作品は一貫してコメディを追求していますが、だんだん観る側も慣れてきたのか、以前の作品ほど声をあげて笑ってしまうという場面が減ったように思います。『記憶にございません!』ももちろんコメディですが、そこまで爆笑に次ぐ爆笑という感じではありませんでした。

でも、現職総理大臣が記憶喪失になるという設定は、もうそれだけで面白いですし、実際作品全体としてなかなか面白かったと思います。こんなことを言ってしまっては三谷監督には申し訳ないかもしれませんが、爆笑を期待しすぎない方が楽しめる気がしました。

個人的に、前作『ギャラクシー街道』が何を表現したいのかよくわからなかったので、それと比べるとものすごくちゃんとストーリーが展開し、ちゃんと楽しめる作品だったので、そういう意味でもよかったと思います。

総理大臣を扱っているので、実在の総理や政府や政治家への批判なども含まれているのかもしれませんが、あまりそこを深読みする意味はないような気がします。

総理大臣役の中井貴一さんはじめ、一流の役者さん達が、ちゃんとしているようでいてどこかズレているキャラクターを見事に演じていましたが、ディーン・フジオカさんだけ切れ者の秘書官をほぼそのまま演じている印象でした。三谷作品なので、もうちょっと三枚目なのかと思っていました。

この手の記憶喪失モノの場合、どこかのタイミングで記憶を取り戻すというのがよくある展開で、そこでまた色々なことが起こるわけですが、その辺りがこの作品の展開はちょっと意外でした。


公式サイトは、こちら。
https://kiokunashi-movie.jp

2019年9月9日月曜日

『ヒンディー・ミディアム』

★★★☆☆

お受験をテーマにしたインド映画。
日本とインドでは教育事情も精度もまるで違うと思いますが、作中に登場する子供は小学校低学年ぐらいに見えるので、日本でいう小学校受験に近いイメージではないでしょうか。

観る前に勝手にイメージしていたのは、難関校目指して、子供そっちのけであの手この手を繰り出す親たちのドタバタをコミカルに描いた作品。
でも実際に観てみると、かなり印象が違いました。どちらかというと、教育を巡る貧富の差がテーマで、もちろん笑いの要素もありつつ、割とシリアスな要素も強い作品でした。

タイトルの『ヒンディー・ミディアム(Hindi Medium)』は、ヒンディー語で授業を行う公立校のことだそうです。mediumは中流階級のことかな?と思っていたのですが、メディア、媒体の方でした。
一方、English Mediumは英語で授業を行う私立校で、作中の親子が入学を目指しているのもそういった学校です。
さらに、私立校であっても一定の割合は低所得者層からの入学を受け入れなければならないというインドの教育制度もストーリーの重要なキーとなります。

この辺りのインド特有の事情は、作中でうまく説明されているので、予備知識なしでも特に問題なく理解できます。

コメディを期待していた割にシリアスだったこと、インド特有の教育環境に依存した内容なので、日本人が観ても自分と重ね合わせるという感覚にはなりにくいことなどから星3つとしましたが、内容的にはなかなかよかったと思うので、3.5ぐらいのイメージです。


公式サイトは、こちら。
http://hindi-medium.jp

2019年8月24日土曜日

『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』

★★★★☆

最近日本で上映されるインド映画は、本当にどれもクオリティが高いと思いますが、この作品もまたとてもよかったと思います。

戦争モノで、格闘アクションの迫力がウリという点では『バーフバリ〜』と同じカテゴリーに入るような気がしますが、『KESARI〜』の方は史実に基づいており、時代も1897年なので比較的最近です。
一応銃や爆弾といった近代的な武器も出てきますが、最後は弾薬が尽きて刀剣で闘うので、結局『バーフバリ〜』と一緒と言えば一緒。それぞれの作品の企画制作のタイミングはよくわかりませんが『バーフバリ〜』の大ヒットを受けて、時代設定を変えて似たような作品を狙って作ったのかも、などと勘ぐってしまいます。

主人公のイシャル・シンは、これぞ漢というカッコいいヒーローとして描かれています。ちょっと出来過ぎているので「史実に基づいたフィクション」の「フィクション」の部分なのかもしれません。
このイルシャル・シンを演じているのは『パッドマン 5億人の女性を救った男』の主人公を演じた俳優さんだそうですが、そう言われても同一人物だと思えないほど印象が違います。

敵は、インドに攻め込んでくるパシュトゥーン人ですが、彼らはアフガニスタンに住むイスラム教徒なので、どうしても今中東を騒がせている人たちをイメージしてしまいます。インド映画は勧善懲悪が多いので、敵はトコトン悪い奴として描かれていました。
一応映画の最初に「特定の団体を非難するものではない」という趣旨の表示がありましたが、ちょっと心配になってしまいました。

人間の死に様の美学のようなものを描く作品は洋の東西を問わず多々あると思いますが、この作品のようなインド映画を観ると、どこかアジア的というか、日本の感覚に通じるものがあるような気がします。いい悪いは別として。

21名で1万人に立ち向かったサラガリの戦いは、インドでは有名な歴史上のできごとなのかもしれませんが、当然私はまったく知りませんでした。日本人だと、戦国時代の戦とか忠臣蔵とか幕末の動乱などは多くの人が知っているでしょうが、これらを知っている外国人が多いとは思えません。
そのようなアジアのごく局地的なできごとをテーマにした映画作品を日本で観ることができ、心を動かされるというのも不思議な体験だと思います。


公式サイトは、こちら。
http://kesari-movie.com

2019年8月12日月曜日

『シークレット・スーパースター』

★★★★☆

本当は歌手になることを夢見ているにも関わらず、厳格な父親にギターや歌を禁じられた少女が覆面シンガーとしてYouTubeに自作の歌を投稿して、それが評判になって…というストーリーのインド映画。このような作品紹介を読んだ時点で、観に行きたいと思っていました。
ちなみに、以前ネットのどこかで、実話を基にしていると書いてあったような気がしていましたが、あらためてネットを見てもそのような情報は見つかりませんでした。

実際に観てみると、ストーリーはとてもシンプルなサクセスストーリーで、笑わせどころ、泣かせどころもうまく出来すぎているあたりがちょっとハリウッド的な気もしました。でも、見事なまでの父親のモラハラっぷりや、覆面シンガーとして演奏するときにイスラム教徒の女性が被るブルカを使うなど、やはりインドならではと感じさせる要素が多々ある映画だと思います。

インドのスーパースター、アーミル・カーンが制作に関わっており、めちゃくちゃチャラい落ち目の音楽プロデューサーとして出演もしています。この演技が、チャラいのに真面目で誠実で、絶妙なバランスの魅力的な人物像を作り上げていました。
ただこの人、とんでもなくマッチョな肉体の持ち主。個人的にはチャラい音楽プロデューサーはもうちょっと不健康そうなイメージなので、そこだけはちょっとギャップを感じました。

主人公のインシアを演じたザイラー・ワシームさんはみずみずしい少女の顔を見せる瞬間もあれば、完全に肝っ玉母ちゃんのように見える瞬間もあり、ちょっと興味深いキャスティングだと思いました。まあ非の打ち所のない美少女よりリアリティがあるような気もします。

こういう作品は、主人公の歌声に説得力がないとガッカリしてしまうものです。そういう意味では、充分素晴らしい歌唱だとは思いましたが、世界中から賞賛されるほどの歌声というにはもうひと頑張りだったかもしれません。
インド映画の場合、登場人物の歌唱シーンでは基本的に本人は歌わず別の歌手の歌声に合わせた口パクだと聞いたことがあります。この作品の場合はどうなのか、気になりました。

そして、インド映画につきもののダンスシーンは、本編ではまったくありません。主人公が歌う歌もバラードなのでダンス向きではありません。最近ではダンスシーンのないインド映画も増えてきたので特に気にしていませんでしたが、最後のエンディングでチャラい音楽プロデューサー、アーミル・カーンが踊りまくっていました。

インド映画は上映館数が少ないので、好きな人が集まってくる傾向にあるのですが、それにしても新宿の映画館は大盛況でした。今年は、夏から秋にかけて面白そうなインド映画が続々公開されるので、毎回こんな感じなのかも。


公式サイトは、こちら。
http://secret-superstar.com

2019年8月10日土曜日

『ライオン・キング』

★★★★☆

何年か前の実写版『ジャングル・ブック』は主人公の男の子以外全てCGでしたが、今回の『ライオン・キング』はついに全てCG。それを実写と呼んでいいのか?と思っていたら宣伝文句としては「超実写版」と呼んでいました。ものは言いようですね。

3DCGアニメーションは、どのように分類すべきなのでしょう?直感的には、今回の『ライオン・キング』のような現実の見え方を徹底的に再現して実写と区別がつかないような絵を作る写実志向型、ピクサーなどのように3Dデータを立体的にレンダリングして絵は作るものの、造形的には誇張やデフォルメされている3Dマンガ的なもの、日本のアニメでよくやられているように3Dデータを使っているものの手書きセルアニメを思わせる線画として表現するセルアニメ風のものの3つぐらいに分けると理解しやすいような気がします。

実は少し前に、以前テレビ放送を録画していたアニメ版をたまたま観ていたのですが、超実写版のストーリーはアニメ版にかなり忠実で、シーンによってはカット割りまで同じなのではないかと思うほどでした。それがいちいち実写的な映像に置き換わっているので、映像製作技術の観点で比較してみると相当面白いのではないかと思います。

アニメ版は、確か当時の職場の同僚たちと横浜の映画館で観たのだったと思います。懐かしい。あのときは、手塚治虫の『ジャングル大帝』とあまりに類似点が多くパクリではないかとメディアも含めて騒動になりました。私自身も偶然の一致というには無理があるほど似ていると思いましたが、手塚プロダクションが問題としないとコメントして沈静化しました。
あれから25年、劇団四季のロングランミュージカルなどもあり、完全に『ライオン・キング』が定着しており、パクリ疑惑のことなどまったく知らない人も多いのでしょうね。

星4つとしましたが、その大部分は映像技術に対する評価です。


公式サイトは。こちら。
https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html

2019年8月3日土曜日

『アルキメデスの大戦』

★★★☆☆

映画やドラマなどで、"理系人間"や"理系的思考"を描くのは相当難しいのだと思います。大体の数学や物理の天才といえばお決まりのごとく変人として描かれ、何でも数式に置き換え、人の言うことを聞かず、自信過剰で、アイデアを思いつくと一心不乱に数式を書き始めたりします。典型的なのはTVドラマの『ガリレオ』でしょうか。私は、あのステレオタイプ的な表現はかなり嫌いです。

本作の主人公は数学の天才ですが、前半では、美しいものは測らずにいられないとあちこちメジャーで測りまくるなど、お決まりの描写でちょっとがっかりしました。
でも、後半は計測するなどという表面的な問題ではなく、どうやって限られた情報から解を得るかという論理的思考の問題にシフトしていき、やっと面白く見られるようになりました。
つまらない変人描写などやめて、前半から論理的思考という切り口で描けば、もっと重厚で深い作品になった気がします。

戦艦大和などのCGは期待どおりで、もっと見たいと思いましたが、基本的に戦艦大和建造前の話なので仕方がないですね。


公式サイトは、こちら。
https://archimedes-movie.jp

『天気の子』

★★★☆☆

映像表現としては期待どおり非常に美しいと思いました。

あとは、設定とか登場人物の性格とかストーリー展開とかが、自分にはどうもピンと来ませんでした。

例えば、異常気象で雨が降り続く東京という設定もなんだか唐突で、どこかの段階で状況が変わるのかと思っていたら特にそういうこともなく、それが予想外といえば予想外でしたが、映画を見終わってもモヤモヤが残りスッキリ晴れない感じでした。

主人公は、どちらかというと気が弱そうな16歳の男の子で、キャラクターデザイン的にも穏やかで大人しそうなイメージに造形されていると思います。でもその行動を見ると、何の根拠もなく周りの人間を味方と敵に分けて、味方でなければあとは全部敵と言わんばかりにひたすら抵抗し反発して逃げ回ります。非常に短絡的、衝動的で感情の起伏が激しく変化します。それが若さと言えば若さなのかもしれませんが、おっさんとしては何をそんなにつんのめっているのかと思ってしまいました。
まあ『未来少年コナン』とかと似たようなものかもしれませんが、舞台がリアルに描かれた新宿の街だけに、その無謀な行動が単なる犯罪的行為にしか見えませんし、彼がそこまでする理由がわかりません。
登場人物に感情移入できないまでも、行動原理として納得できないと、その作品を見てよかったとはなかなか思えません。

主人公とヒロインの声優さんはオーディションで選ばれた方のようですが、とてもよかったと思います。
最近の大作アニメ映画は、有名な俳優さんばかりを起用する傾向がありますが、なぜかこの作品は野沢雅子さんをはじめとする有名な声優さんがちょっとだけ登場しています。個人的には、いいことだと思います。


公式サイトは、こちら。
https://tenkinoko.com

2019年7月16日火曜日

『トイ・ストーリー4』

★★★★☆

『トイ・ストーリー』シリーズは、これまでの3作もすべて映画館で観ており、テレビで放送したものも録画していますが、何度も見返すことはほとんどないので、正直これまでの作品のストーリーはあまりおぼえていません。

1作目は、とにかくフルCGでここまでできるのか!という衝撃が強かったのをよくおぼえています。それも、単に技術的な部分というよりは、フルCG動画作品なのに単なる物理シミュレーションに終わらず、キャラクターが生き生きとして物語も面白く、もはや普通の映画になっていることが驚きでした。

そして、多くのシリーズものにありがちなように、2作目、3作目と、悪くないのですが何となくパワーが落ちていくように思えました。

で、今回の4作目ですが、上映時間も長すぎず、ストーリーはシンプルでわかりやすいと思います。いい塩梅に笑いも涙も散りばめられており、なかなかよかったと思います。

今作がシリーズ最後の作品という話もあり、それらしいラストではありましたが、続編を作ろうと思えば作れる終わらせ方になっていたので、忘れたころに企画が持ち上がるのかもしれません。でも、ピクサーがディズニーに買収され、ジョン・ラセターも去って、次回作があったとしても、製作環境はずいぶん変わってしまうでしょうから、今回の4作目でピリオドというのはいいセンなのかもしれません。

今回、笑いを誘うネタに、なぜか日本のネタ見せ番組などに近いノリを感じました。なぜなのか、どこがどう日本的なのか説明できないのですが、とてもわかりやすいと思いました。でも同時に、若干安っぽいような気もしました。

ふと、ピクサー作品では毎回お馴染みだった短編作品の同時上映はありませんでした。ずっと同じことをやっていればいいというものではありませんが、毎回とてもクオリティが高く、長編と同じくらい楽しみにしていたので、残念でした。勝手に一つの時代の終わりのような気分になってしまいました。
そういえば、一時期当たり前だった3D上映もいつの間にはなくなりました。第何次だかもうわかりませんが、また3Dブームは一時的なブームで終わりましたね。定着することはあるのだろうか?

公式サイトは、こちら。
https://www.disney.co.jp/movie/toy4.html

2019年6月29日土曜日

『僕はイエス様が嫌い』


★★★☆☆

いつだったか、若い日本人監督作品で海外の映画祭で評価されたと聞いて興味が湧いたのですが、たまたま近くの映画館で期間限定で上映することを知って観てみました。

小学5年の2学期が終わる少し前にミッション系の学校に転校してきた男の子の話です。

私自身も、中学高校はミッション系でした。キリスト教を感じさせる学校内イベントは多くはありませんでしたが、それでも入学式、卒業式、始業式、終業式などのときは校長(ブラザー)によるお祈りなどがあり、全校生徒で「アーメン」と言うことになっていました。ただ、自分はキリスト教徒ではないのに、形だけ真似て「アーメン」と言うことがかえって失礼な気がして、実は在校中の後半はほとんど黙っていました。

 校長以外にもブラザーの先生は何人もいて、奈良京都の修学旅行に同行したときは、彼らも神社仏閣を参拝していたので、まあ大したことではないのかもしれませんが、信仰を持たない者が宗教の世界に触れたときの戸惑いが、自分の体験として多少なりともあるので、この映画ではそれをどのように描いているのか気になったのです。

映画は、間違いなく男の子がキリスト教に触れた戸惑いが一つのテーマとなっていますが、とても口数が少ない作品なのでそれを直接セリフでしゃべらせるような表現はほとんどありません。
でも、彼がキリスト教のお祈りに対して、不思議がったり、興味を持ったり、期待したり、がっかりしたりしていることが感じられます。その後彼が卒業まであの小学校に通って、お祈りの時間をどのように過ごしたのかを想像すると、ちょっと切ないです。

主人公の男の子やその友達の演技はとてもよかったと思います。特に2人で人生ゲームをやるシーンは全部脚本通りなのかアドリブなのか、普通の小学生のやり取りをドキュメンタリーとして撮影したようでした。

舞台となる小学校の木造校舎や別荘の魅力的な建物や、雪の上を歩く白いニワトリのシーンなど、絵として「お!」と思う部分も多々ありました。

男の子が手を合わせると、彼にだけ小さなキリストが見えるという設定は、面白いけど奇をてらいすぎのような気もしました。

タイトルからわかるとおり、主役の男の子目線ではイエスを否定する内容ですが、これがヨーロッパの映画祭で賞をとったというのも興味深いところです。受賞理由が気になります。ちなみに英題は『JESUS』。

宗教に対する純粋な疑問を描くという意味では、インド映画の『PK』を思い出しましたが、あちらは主人公が宇宙人のコメディで、まったく趣が異なります。

公式サイトは、こちら。
https://jesus-movie.com

2019年6月22日土曜日

『旅のおわり世界のはじまり』

★★★☆☆

何年か前にウズベキスタンに旅行に行ったので、映画の中でウズベキスタンがどのように描かれるのか興味があり、この作品が製作されると知ったときから観に行くつもりでした。

『日立 世界ふしぎ発見!』のような(そしておそらくもっと下世話な)海外バラエティ番組のレポーターと撮影クルーが、ウズベキスタンロケで様々な体験をする様子を描いており、一応ドラマとしてのストーリーはあるものの、起承転結がはっきりしないロードムービー的な作品でした。

私の興味の一つとしては、自分が行った場所がどのくらい登場するか?ですが、予想以上に少なかった印象です。
タシケントは、チョルスーバザールとナヴォイ劇場、ホテルウズベキスタンの外観などが、ドラマの舞台となっていました。

チョルスー・バザール
チョルスー・バザール

ナヴォイ劇場
ナヴォイ劇場

ホテルウズベキスタン
ホテルウズベキスタン

サマルカンドのメジャーだと思われる観光スポット(レギスタン広場など)はチラリと映っただけ。シヨブ・バザールは、前田敦子さん演じるレポーターが食料調達のため出かけるのですが、私が記憶している場所はほぼ映らず。

レギスタン広場
レギスタン広場

ショブ・バザール
ショブ・バザール

遊園地や湖や山は作中で割と時間をとっていましたが、いずれも私は訪れなかった場所ですし、おそらく観光するならもっと他に見どころ(ブハラやヒヴァなど)があると思います。
延々と広がる平原は、タシケント〜サマルカンド〜ブハラ間を鉄道で移動するときに見た車窓の風景の印象ととても近いと思いましたし、タシケント、サマルカンドで登場する何気ない街角も、具体的にどこなのかはわかりませんが雰囲気はウズベキスタンっぽいと感じられました。

ウズベキスタンのメジャーな観光スポットは、モスク、神学校、廟などで、いずれもイスラム教の宗教関連施設なのですが、そういった場所がドラマの舞台から外れているのは何か意味があるのか、単にメジャー過ぎて面白くないということなのか。

前田さん演じる葉子は、海外バラエティ番組のレポーターでありながら、撮影時以外は現地の人と積極的に関わろうとせず、結果的に疎外感や孤独感を感じてしまうキャラクターで、私から見ると、行動原理が読めないというか、やる気があるんだかないんだか、明るいんだか暗いんだかわかりにくいタイプ。ただ、前田敦子さんには合っているとは思いました。

メジャーな観光スポットがちょっとしか登場しない、主人公があまり楽しそうじゃないということで、この映画を観てウズベキスタンにぜひ行ってみたいと心を動かされる人がどのくらいいるのだろう?と思ってしまいました。
単純にウズベキスタンの観光地としての魅力を感じたいなら、それこそ『世界ふしぎ発見!』のような番組を見た方がいいと思います。もちろん、ストレートな観光PR映画を作りたかったわけではないのでしょうが、ウズベキスタンの大使館なども後援しているので、ちょっと予想外でした。

ちなみにこの作品、日本・ウズベキスタン・カタール合作ということなのですが、カタールはいったいなぜ製作に関わっているのか、まったくの謎。

公式サイトは、こちら。
https://tabisekamovie.com

2019年6月15日土曜日

『海獣の子供』

★★★★☆

ストーリーは、何を言いたいのかさっぱりわかりませんでした(^^;)。
でも、あれだけ映像が素晴らしいと、それだけで星4つあげちゃいたくなりました。

STUDIO 4℃というと『鉄コン筋クリート』を映画館で観ています。一般大衆ウケはしないと思いますが、ちょっとアングラというかマニアックというか屈折しているというか、メジャー路線からは少しずれたポジションにいるこだわりのプロ集団という印象を受けました。

『海獣の子供』でも、映像面でハッとさせられる表現がたくさんありました。背景の美しさやCGの使い方、人物のものすごく細かい仕草などの演技などなど。

今時のアニメ作品はキャラクターの顔などに共通の造形パターンがある印象で、個人的にはあまり好きではありません。人間の顔という立体物を線画で平面に置き換える際、もっと様々な造形の解釈があるように思えます。
本作の場合、原作漫画のキャラクター造形を再現しているということでしょうが、お決まりの描き方にはいかないところが好印象でした。

あのさっぱりわからないストーリーも当然原作に基づいているのだと思いますが、それを選んだところが、いかにも(私のイメージする)STUDIO4℃らしいと思って、ニヤリとしてしまいます。

これからも、変に一般ウケを狙わず、こだわりの作品を期待します。

米津玄師くんの主題歌も、私にとってはなんだか難しいメロディでした。


公式サイトは、こちら。
https://www.kaijunokodomo.com

『パドマーワト 女神の誕生』

★★★★☆

インドの歴史大河ドラマといった感じの作品。
人間ドラマとしても軍記物としても面白く、映像的にも迫力があってよかったと思います。
ただ、インドの歴史モノ映画というと、ちょっと前に『バーフバリ』があったので、あれと比べてしまうとどうしても全体的に大人しい印象になってしまいます。

この作品は、インドの昔の叙事詩に基づいているそうですが、この叙事詩自体が史実に基づき脚色したものだそうです。
基本的には二つの国の戦争を描いているのですが、その一方はイスラム教国で建築様式が中東っぽく、そもそも私は昔のインドについて何も知らないので、あまりインドを強く感じない不思議な雰囲気でした。まあ『バーフバリ』も無国籍な印象でしたが。

シリアスな歴史モノですが、インド映画お決まりのダンスシーンはいくつかありました。インド映画は上映時間が長いので、インド以外の国ではダンスシーンなどをカットしたインターナショナル版が用意されることもよくあります。今回の日本上映版は164分ということなので、どうやらインド国内版と同じ長さなのではないかと思います。

公式サイトは、こちら。
http://padmaavat.jp

2019年6月2日日曜日

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

★★★☆☆

前作も映画館で見ているのですが、どんなストーリーだったかまったくおぼえていません。ただ、さらにその前のハリウッド版ゴジラと比べると、日本のゴジラをリスペクトしている感じがしたことはおぼえています。

最近のハリウッドのアクション、クライシス系の映画で気になるのは、登場人物があまりに不用意で楽観的すぎるため危機を呼び込んでいるとしか思えないものがよくあること。登場人物が危機にさらされないとこの手の作品は面白くないわけですが、登場人物の振る舞いが勇敢というより愚かに見えてしまうと、それもまた低レベルな感じになってしまいます。
で、今回のゴジラでも、やはり「軽率な行動」が目につきました。

映像は非常に迫力があってよかったのですが、暗い場所であったり、逆に光が強かったり、雲や煙がかかっていたり、動きが速かったり、…といった状況で、怪獣たちの造形のディテールがよくわかりませんでした。例えば、モスラの羽にはどんな模様があったのか、とか。

音楽は、本編の中でもオリジナルのゴジラやモスラの音楽のフレーズがモチーフとして入っているのは気づきましたが、エンドロールでははっきりと使われていました。ハリウッド作品の中で聴くゴジラやモスラの楽曲には、ちょっと感動しました。

ゴジラ愛を感じる作品でしたが、『シン・ゴジラ』の政府や自衛隊の動きを徹底的にリアルに見せるという切り口を見せられた後ということもあり、良くも悪くもハリウッドらしい軽さに終始していた気がします。


公式サイトは、こちら。
https://godzilla-movie.jp

2019年4月7日日曜日

『ROMA/ローマ』


★★★★☆

アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。NETFLIX制作なので、アカウントを持っていない私は普通なら観ることができませんが、アカデミー賞受賞を受けて劇場上映しているので、観てみました。

よくできた作品だと思いました。ただ、私にとっては割と苦手な路線でした。旅をしないロードムービーといった感じで、起承転結がはっきりしないタイプの作品。アカデミー賞外国語映画賞には是枝裕和監督の『万引き家族』もノミネートされていましたが、是枝監督作品も、そういう点では私の中では同じカテゴリーです。

日常を切り取った感じの描写が多いので、ディテールは面白いと思いました。70年代メキシコの生活の様子がよくわかった気がします。

白黒の映像は綺麗でした。オープニングの何分間かカメラを動かさずずっと床だけを撮っているカットは印象的でした。あとは、カメラをパンさせるすごく不思議な撮り方も、技巧的にはどうなのかわかりませんが、印象には残りました。

R15指定でしたが、そうせざるを得なかったのはたぶん1シーンだけだったような気がします。あそこでパンツさえ履かせておけばR指定なしにできるのに、そういう判断にならないのが芸術の面白いところですね。

この作品のタイトルなどで使われているフォントなのですが、個人的にはちょっとかわいらしさを感じてしまい、この作品のトーンとは合っていないような気がしてしまいました。

公式サイトは、こちら。
https://www.netflix.com/jp/title/80240715

2019年3月23日土曜日

『グリーンブック』

★★★★☆

2019年 第91回アカデミー賞作品賞受賞作品。

黒人と白人、上流階級と使用人という構図が、『最強のふたり』を彷彿とさせるので、観に行こうかどうしようか考えましたが、まあアカデミー賞も取ったことだし、ということで観に行きました。

ストーリー展開も、大きなところでは『最強のふたり』と似たような感じで、最初はいがみ合っていた二人が徐々に友情を育んでいくというもので、想像どおりでした。
ただ『最強のふたり』は、たまたま白人の富豪と黒人の使用人だっただけで、黒人差別は直接的なテーマではなかったと記憶しています。そして、全体的なトーンとしては明るめ。
対して、『グリーンブック』は黒人差別がモロに作品のテーマなので、いい塩梅に笑いをちりばめてはいるものの、作品全体として暗く重いものを感じました。

アメリカで、いまだにこのような黒人差別を扱った作品が作られ、高い評価を得ているのは、表面的な制度上は差別が撤廃されているものの現実には今も差別意識が根強く残っているということなのでしょう。50〜60年前を舞台にしたこのような作品を観て、実は今を憂いているのだと思います。
日本でも人の心の中の差別的な意識は多々あると思いますが、少なくともアメリカ社会をダイレクトに経験していない私にとっては、黒人差別問題を当事者感覚を持って受け止めることは難しいように思います。

主人公の白人は黒人嫌いですが、自分を運転手として黒人にときには逆らい罵ったりもするのですが、必要以上にキレて暴力を振るったり周りのものを破壊するような行動を取らないのは見ていてホッとしました。
行儀が悪く下品で粗暴なキャラなので、最近の日本の作品であれば簡単にキレて暴れまわる演出となりそうな気がします。私はああいう描写に必ずしもリアリティを感じないし、安易な演出に思えて好みではありません。


公式サイトは、こちら。
https://gaga.ne.jp/greenbook/

2019年3月2日土曜日

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち/第七章 新星篇』

★★★★☆

来週以降テレビで観られるとわかっていますが、一応映画館に観に行きました。
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』と『宇宙戦艦ヤマト2』のリメイクということで、結末もどうなるのか気になりましたし、そこにたどり着くまでの過程もいろいろと気になる点がありました。

なるべくネタバレしないようにしたいところですが、ゼロというのもちょっと難しい気がします。ご了承ください。

全体として、展開が慌ただしかった気がします。旧作の『さらば〜』や『〜ヤマト2』ではもう少しじっくり見せていたシーンに相当するところがサッと過ぎ去っていく印象でした。
おそらく、旧作のラストは25話までで終了し、そのあとに旧作にはまったくないエピソードを1話追加した構成になっていることも展開の速さに関係している気がしますが、だとすると、全26話の中盤のあの回とかは削ってもいいのでは?と思わなくもない気がします。

旧作にどっぷりハマった私としては、印象的なシーン、セリフ、絵、設定などがリメイクでどうなるのかと気になっていたことが多々あったのですが、まったく違うものになっていた部分が多かったと思います。だからこのリメイクは駄作だということではありませんが、すぐには自分の中で消化しきれないかもしれません。もう一度見返さないと充分理解できていない部分もあるような気がします。

『〜ヤマト2199』のときも、コスモリバースシステムの中核は人間の精神という設定がありましたが、本作でも人間の精神をSF的に取り扱うような設定が出てきて、個人的にはちょっと苦手なところ。何となくヱヴァンゲリヲンっぽいと思うのですが、ヱヴァは最初からそういう世界観の作品なのでまだ許容しやすいと思います。でも、少なくとも旧作のヤマトにそういう要素はないので、割と違和感を覚えます。
また、26話で出てくる国民投票や真田の演説に強い意味を持たせる演出はガンダムっぽさを感じました。
ヤマト→ガンダム→ヱヴァンゲリヲンという日本のSFアニメの歴史を踏まえてあらためてヤマトをリメイクするとき、ガンダム的要素、ヱヴァ的要素をも取り込んだということかもしれません。

で、実はあれでガトランティスが滅亡したのか、私にはよくわかりませんでした。
ふと、『〜ヤマト2199』のときは結局後から完全オリジナルの映画『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』が制作されたので、もしかしてそういう可能性を残しておいたのだろうか?と思ったりして。
また、旧作『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』以降に相当する続編がありうるのかも気になるところです。


公式サイトは、こちら。
http://yamato2202.net

2019年2月9日土曜日

『ファースト・マン』

★★★★☆

アポロ計画を描いた映画としては、トム・ハンクスが主演した『アポロ13』が大好きです。あれは、月面着陸というミッションは失敗しますが、次々と起こるトラブルを宇宙飛行士と地上クルーの努力で乗り切るという内容で、失敗したミッションを取り上げたところに大きな価値があると思っています。

『ファースト・マン』はアポロ11号で人類初の月面着陸を成功させたニール・アームストロングが主人公なので、これを普通にハリウッドが映画化したら、人類の偉業、科学の勝利、勇敢なる英雄、アメリカの誇り、…といったキラキラした作品にしかならないはず。ただ、そこは『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督なので、さぞかし違う切り口の作品なのだろうという期待がありました。

結果としては、アポロ11号をテーマに、よくここまでネガティブな雰囲気漂う作品にしたなあという出来栄えでした。NASAの仕事では、時には生死に関わるほどの非常に厳しい訓練、事故による仲間の死、マスコミや世間からのバッシング、プライベートでは、娘の死、生きて帰れる保証のない仕事に取り組むことから来る家族との微妙な関係と、アポロ計画が語られるとき、普通ならあまり強調されないネガティブな要素を淡々と描写していきます。
逆に、月面着陸を実現させることが技術的にいかにすごいことなのかは、ほとんど表現されません。

主人公は、すべてを飲み込んでミッションに取り組み、家族と接している感じで、ほとんど感情を表現しないので、何を考えているのかはよくわかりません。本物のニール・アームストロングがこういう人だったのか、この作品用に作られた人物造形なのか、たぶん後者のような気がします。

あとは、手持ちカメラを多用しているのか、かなり画面がフラフラと揺れるのが印象的。ロケットの発射の際の船内の振動も思い切り画面を揺らします。でもそこがドキュメンタリーやニュース映像のようで生々しく、リアルに感じられます。
音も、ロケット噴射やその振動でガタガタ、ギシギシと大きな音をたてたかと思うと、宇宙空間ではまったくの無音になったり、かなり極端に変化します。
こういったカメラや音の使い方も新鮮で、生々しさやロケットに乗ることの恐怖感、宇宙の異世界感などを強く印象づける効果につながっているように思いました。

細かいところですが、序盤にモハーヴェ砂漠が登場します。私はMacユーザーなので、macOS MojaveのMojaveだとすぐにわかりました。

字幕監修は、日本人宇宙飛行士の毛利衛さんでした。

公式サイトは、こちら。
https://firstman.jp

2019年2月6日水曜日

『マスカレード・ホテル』

★★★☆☆

原作は読んでいません。

ホテルを舞台にした有名な映画やテレビドラマはいくつかあると思うのですが、主に宿泊客の人生に光を当てた人間ドラマといった体裁になることが多いように思います。
一方で、殺人事件の犯人探しを楽しむエンターテインメントがミステリー。
そのいいとこ取りをしたような作品でした。

たくさんの怪しい宿泊客のエピソードは、実は犯人探しとは何の関係のない場合もあって、そうした"ノイズ"をたくさん加えて観客を混乱させるのは、ミステリーとしてはちょっとアンフェアな気がします。これで、ミステリーとしての骨格がいい加減だったら納得できないところですが、本作の場合はちゃんとしていたと思います。
だとしたら、もっとノイズを減らして、ミステリーとしての骨格だけで勝負してもよかったのではないかと思ってしまいます。原作はどのようなバランスなんだろう??

木村拓哉くんは「どんな役を演じても木村拓哉」と揶揄されることがありますが、最近の演技は"木村拓哉"を抑え気味な気がしますが、周りからは若い頃の"木村拓哉"を期待する声もあるのでしょうから、さぞかし大変だろうと思います。個人的には、何年間か表舞台に出るのをやめて、ビジュアル的にも内面的にも完全におじさんになってから脇役で復帰したりすると評価されそうな気がしますが、彼の場合それは許されないのでしょうね。

最後に、木村拓哉演じる刑事と長澤まさみ演じるフロントクラークが恋愛関係に進展するような雰囲気のるシーンがありましたが、私はこの作品に恋愛はなくていいと思いました。


公式サイトは、こちら。
http://masquerade-hotel.jp

2019年1月21日月曜日

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

★★★★★

インド映画は、東京でも上映する映画館が限られる場合が多いのですが、興味があっても映画館では観る機会がないということもあります。
この映画も、予告編などを観て気になっており、できれば観たいと思っていた作品。幸いにも比較的行きやすい映画館で上映されていたので、ここぞとばかりに観てきました。

結論としては、とてもよかったと思います。

ストーリーの骨子は極めてシンプルで、インドで迷子になった言葉の喋れないパキスタン人の女の子を、バジュランギおじさんが家まで送り届けるというものです。それを、159分の作品として、飽きさせることなく、ハラハラさせ、考えさせ、笑わせ、共感させ、感動させる仕上がりになっていると思います。

シャヒーダー役の女の子はとても可愛いビジュアルで、言葉が喋れない役なので表情や仕草だけで健気に演じています。

また、作品の中ではインドとパキスタンの関係や異宗教との関係など、インドならではの事情も描かれています。それが社会科の教科書とはちょっと違う生っぽさで、非常に興味深いです。
韓国映画にも北朝鮮が取り上げられているものがありますが、インドは映画の中でパキスタンについてこんな風に取り上げることができる自由さはあるんですね。

ただ、作中で「インドもパキスタンもない」といったセリフをパキスタンのテレビレポーターが語るという演出は、ちょっと恣意的なものを感じました。インド映画なんだから、インド人側がそういうメッセージを発信すればいいのに、インド映画でパキスタン人のそれを言わせるのは「そっちが折れないからいけないんだ」というメッセージのように思えてしまいますね。…というのは私の考えすぎでしょうか。

そう言えば『LION ライオン 25年目のただいま』もインドの迷子の話で、パキスタンとの関係にも触れていたはず。インドではよくある話なのでしょうか。

いくつか、日本の感覚では腑に落ちない点もありました。
普通、迷子を見つけたら警察に相談すると思いますし、その子がパキスタン人だとわかればパキスタン大使館にどうにかしてもらうと思います。そして、相談したのに取り合ってもらえないということは考えられないと思います。
この映画の中でもバジュランギは警察にもパキスタン大使館にも相談しているのですが取り合ってもらえません。取り合ってくれちゃうと作品が成立しないので、映画としては当然なのですが、あれはインドでも不自然な展開なのか、それともインドではよくあることなのか、そこが謎でした。


公式サイトは、こちら。
http://bajrangi.jp

2019年1月2日水曜日

『来る』

★★★☆☆

2018年11月から12月にかけて観たい作品がたくさんあり、いつにないペースで映画館に通った結果、年末公開で観たかった作品は全て観てしまったのですが、せっかく1月1日は金額が安いので『来る』を選びました。
『告白』の中島哲也監督作品なのと、黒木華さんが出演しているので、気になっていました。ただ、ホラーは好きではないので躊躇していましたが、ネットのレビューを見る限りホラーとしての怖さはそれほどでもないということなので、観てみることにしました。

実際に観てみると、ホラーじゃないということはないのですが、確かに人間の怖さの方が印象に残りました。
以前、蒼井優さん主演の『彼女がその名を知らない鳥たち』という作品が「共感度ゼロ」「全員クズ」といったキャッチコピーを掲げていたのですが、『来る』の主要キャストもかなりのクズぞろいでした。最初はいい人そうに描かれていても、話が進むに連れて裏の顔が出てきます。

普通、主人公は映画の上映時間の最初から最後まで出続けるのがセオリーですが、この作品では重要な役どころの人物が途中で退場したり途中から登場したりするので、結局誰が主人公なのか、正直よくわかりませんでした。まあ、それが悪いことだとは思いませんが。

子役の女の子は作中ではけっこうひどい仕打ちを受ける役で、この作品に出演したことがトラウマにならなければいいなあと思ってしまいました。

公式サイトは、こちら。
http://kuru-movie.jp


さて、昨年2018年に観た映画は33本でした。前年よりは10本近く減っています。まあ自分でも少し本数を減らしたいと思っていたので、狙いどおりといったところでしょうか。
一方で、星5つを付けたのが3作品ありました。『ゴッホ ~最期の手紙~』『カメラを止めるな!』『パッドマン 5億人の女性を救った男』なので、ちょっと変化球的な作品ばかりかもしれませんが、自分としては収穫が多かった1年だった印象です。