2018年12月16日日曜日

『機動戦士ガンダムNT』

★★★☆☆

当初は映画館で観るつもりはなかったのですが、なんとなく観てしまいました。

『機動戦士ガンダムUC』は一応観てはいるのですが、たいして覚えていないので、その続編といわれてもついていける自信はありませんでした。
たぶん『〜UC』を熟知していると、よりつながりがわかって楽しめるのでしょうが、私ぐらいの知識でも困ることはありませんでした。

ニュータイプという概念は、ファーストガンダムから登場します。映画版だと1作目から言葉として出てきたと思いますが、その元となる最初のテレビシリーズではかなり後半の方になるまで出てきません。富野さんはいったい、ファーストガンダム制作過程のどの段階でこの概念を思いつき、その時点ではどう定義していたのでしょうか。
結局ファーストガンダムの作中ではニュータイプが何なのか明確に語られることはなく、その存在を信じていない人もいるし、信じてないけど政治利用する人もいるといった状況。
でも、そのおかげで、今になってニュータイプを主要なテーマとしてたガンダム作品ができるわけで、作品世界を形づくる設定の重要性をあらためて感じさせられます。

では、本作でニュータイプについての「答え」が得られるかというと、やはり曖昧なままな気がします。また、魂だけで存在できるとか死者と交信できるといった、ちょっとオカルトチックな説明が出てきて、私にとってはあまり好みではない方向に向かいつつあるような気配を感じてしまいました。
今後も宇宙世紀もののガンダム作品が制作されるようですが、あまりにもニュータイプの精神世界を描く方向へ進むようだと、私はついていけないかも。

公式サイトは、こちら。
http://gundam-nt.net

『ドラゴンボール超 ブロリー』

★★★☆☆

長い歴史があるドラゴンボールシリーズは、かつての敵が仲間となり、子供が生まれ成長し、気がつけば登場人物がとんでもなく多くなっています。2時間足らずの映画作品で、彼らをみんな登場させようとするのはかなり無理があります。

そして、バトル作品の宿命として最新作には最強の敵を出さざるを得ない都合上、結局戦闘力の高い一部の登場人物しか活躍の場が与えられません。

たぶんそういう理由だと思いますが、本作では登場人物がかなり抑えられており、クリリンも武天老師も悟飯も悟天も17号もまったく出てきません。
ストーリーも極めてシンプルで、フリーザとベジータ、ブロリーの過去の因縁のエピソード以外は、ほぼバトルシーンのみです。

ブロリーというキャラクターについては、原作コミックには登場しないので、何となくいたなあ…という程度の印象しかありませんが、過去のエピソードは想像の範囲を超えるようなものではありませんでした。
そうなると、本作の見どころは結局バトルシーンということになると思います。けっこう時間も長いと思いますし、アニメーション技術的にも非常にこだわって描いているのではないかと思います。とても迫力があります。

登場人物を絞って、ストーリーをシンプルにして、バトルシーンに注力したという考え方はうまくいっていると思いますし、ネット上でも評価されているようです。
ただ、私自身はあそこまでバトルシーンを見たいと思っているかというとそうでもないので、星3つとしました。

公式サイトは、こちら。
http://www.dbmovie-20th.com

2018年12月15日土曜日

『パッドマン 5億人の女性を救った男』

★★★★★

ひとことで言うと、インド版プロジェクトXな映画です。
私は、モノづくりに打ち込む人たちのエピソードに強く共感して感動してしまう傾向があるので、この映画にもとても感動しました。
同じセンサーを持っている人は、「インド映画なんて」などと思わずに観てみるといいかも。

作品中のセリフで、物語の舞台が2001年とかなり最近であることがわかりますが、インドでは生理用品が高価で、あまり普及していなかったようです。そしてその手の話題を取り上げること自体が暗黙のタブーだったため、主人公の安価な生理用品開発は非常に苦労します。
日本の時代感覚とは少しズレがありますが、日本でもほんの数十年前まで生理用品のCMがテレビで流れることはなかったのだから大差ないと思います。

本家のプロジェクトXでは、TOTOのウォシュレットが取り上げられていたと思います。あれは、シャワーを命中させるためにターゲットの位置のデータを調べる必要があるわけですが、既存の人体寸法データにそんな数値は載っておらず、自分たちで測定したくても協力者が得られず、苦労したと聞いたことがあります。タブー領域の製品開発は常に苦労するのです。

そして、女性の生理にまつわる伝統や習慣は日本にも色々あると思いますが、海外の事情は意外と知りません(私が男性だからかもしれませんが)。インドの摩訶不思議な習慣も非常に興味深いと思いました。

最終的に主人公は国連に招かれて、超下手くそな英語でスピーチをするシーンがあります。たぶん私より英語は下手。でも、とても伝わって、それがすごくいい。ああいう下手な英語が使えるようになりたいものです(^^;)。

最近のインド映画は素晴らしく進化していると思いますが、こういう製品開発ものは初めて観ました。インド国内的にも新しいタイプの作品なのでしょうか。でも、舞台がインドというだけで明らかにインド映画ですし、やっぱり途中で歌が始まるお約束もあるし、喜怒哀楽のあらゆる感情が表現されている感じもインド映画。そのまま、ハリウッドのコピーにならずに進化し続けてほしいものです。

公式サイトはこちら。
http://www.padman.jp/site/

2018年12月4日火曜日

『人魚の眠る家』

★★★☆☆

※ネタバレ情報を含んでいると思いますので、ご注意ください。

ひとことで言うと、脳死と臓器移植がテーマの作品ですが、何だかん見ていて辛くなる作品。

我が子が脳死状態に陥っても、それを死とは受け入れられずに、臓器提供を拒絶する親、というところまでは、様々な医療ドラマなのでもよくあるシュチュエーション。

ここから、親たちがテクノロジーの力を借りて、脳死状態の我が子に細工を施すあたりから、この作品独自のおそろしさが始まります。
しかも、最初のきっかけはさほど異常性を感じないのに、徐々にエスカレートしていくと周りも巻き込んで感覚が麻痺していき、気がつけばマッド・サイエンティストのような状況に。

私は基本的にはテクノロジー肯定派ではあるのですが、テクノロジーが下手に選択肢を増やし期待を持たせてしまうと、かえっておかしなことになるという、困った側面を見せられた気がします。

タイトルの「人魚」は、プールでの事故で子供が亡くなったことにかかっているような、「人形」にもかかっているような気がしました。

公式サイトは、こちら。
http://ningyo-movie.jp

2018年12月1日土曜日

『日日是好日』

★★★☆☆

黒木華さんという女優さんがとても好きなのですが、このところ彼女の出演映画が立て続けに公開されています。さすがに全部観る気はないので主演作である『ビブリア古書堂の事件手帖』だけを観ようと思っていました。

『日日是好日』も黒木さん主演ですが、ちょうど樹木希林さんが亡くなったのと公開時期が近かったこともあり、どちらかというと樹木希林さんの作品という印象だったので観ないつもりでした。それが、最初の公開から少し遅れて近所の映画館で上映し始めたので、やっぱり観に行くことにしました。

結果的には、やはり樹木希林さんの作品だと思いました。本当に自然で、どこまでが演技なのかわからない感じでした。
例えばお茶の生徒の振る舞いを見て「うん、うん」とうなずくような場面で、普通セリフを効かせるのであればそれなりのボリュームではっきりと「うん、うん」と発話するし、黙ってうなずくのであれば声は出さない、という芝居になると思います。
それが、この作品の樹木さんは、明らかに聞かせる演技としては小さい音量で、たまたま口から音が漏れたような「うん、うん」でした。でも実際、人はこういう曖昧なアクションをすることも多いので、樹木さんの芝居はとても自然で、演技っぽくない印象になるのだと思います。

ストーリーは、黒木さん演じる主人公が20歳でお茶を習い始めてからの二十数年間が描かれていますが、特に大きな起承転結はなく、ロードムービー的な展開でした。
それが、理屈で考えず手が勝手に動くまで反復練習するという、茶道の学び方とシンクロしているような気がしました。様々な季節の庭の草木のカットなども、流れ行く月日を感じさせてくれるいい味付けになっていたと思います。

個人的にはロードムービーはあまり好きではありませんが、何となくいい時間を過ごさせてもらえたと思えるような作品でした。

公式サイトは、こちら。
http://www.nichinichimovie.jp

『ムトゥ 踊るマハラジャ』

★★★★☆

20年ほど前、初めて観たインド映画が『ムトゥ 踊るマハラジャ』で、ただただカルチャー・ショックでした。
それ以前から、タモリさんが「インド映画はやたらと長い」「突然ダンスシーンが始まる」などとテレビで話しているのを聞いたことがあったのですが『ムトゥ〜』を観て「ああ、こういうことだったのか」と納得しました。

『ムトゥ〜』はコメディ色が強いので笑いの要素は多いのですが、それ以外にも映像や編集の荒っぽさや、ギャグのくだらなさ、ストーリーの強引さ、演技の臭さなどに失笑してしまうこともありました。音楽も強烈で、インドの民俗音楽とテクノを融合したような、他では聴いたことがないようなものでした。一体どこまでが本気なのか、どこまでが狙いなのか、まったくわからない作品でした。

それ以来、インド映画には何かとんでもないパワーがあるように思えて、日本で上映される作品はなるべく観るようにしてきましたし、『ムトゥ 踊るマハラジャ』はビデオを買い、DVDを買い、CDも買いました。

そんな思い出深い作品が4K&5.1chデジタルリマスター化されたというので、何の躊躇もなく観に行きました。

DVDも長らく観ていなかったので、「ああ、こんな感じだったなあ」と懐かしさを感じましたが、正直言って4K&5.1ch化された効用はほとんど感じませんでした。
画質は、おそらく見比べればきれいになっているのでしょうが、どちらかというと画面の粗さを4Kで忠実に再現した印象でした。音楽は5.1chに分離されたせいか、楽器の音色がCDと少し違うような感じもしました。
そして、このデジタルリマスターによって、この作品の持つパワーが格段にアップしたかというと、特にそんなことはないと思います。逆に言えば、この作品のエネルギー源は画質でも音質でもないということだと思います。
結局、デジタルリマスター化は、最新の映像フォーマットに合わせたという以上の意味はないように思います。

主人公ムトゥと同じ使用人仲間で、テーナッパンという小太りの男が作中に登場するのですが、この人の声が甲高くて、非常に耳障りでした。当時の私は、録音技術がよくないために音が割れているのではないかと思いました。
デジタルリマスター版ではどう聞こえるのか気になっていましたが、結果はやはり耳障りでした(^^;)。まあでも、音が割れているわけではなさそうなので、そんな風に聞こえる声なのでしょう。

あらためて観た『ムトゥ 踊るマハラジャ』は懐かしく、相変わらずの破壊力でしたが、同時にこの20年間のインド映画の進化も感じました。最近のインド映画は、映像、音、ストーリー、演出、演技、どれをとっても非常に洗練されています。それはハリウッド的になったということでもあります。それと比べると『ムトゥ〜』は明らかに野暮ったいと思います。
今のところ、インド映画はハリウッド的要素を取り入れつつもインドらしさを保ってうまく進化している印象ですが、インドらしさを失ってしまうと存在意義が薄れてしまいます。その失ってはいけないインドらしさが『ムトゥ〜』には結実していると思います。

公式サイトは、こちら。
http://www.muthu4k.com