2019年10月20日日曜日

『見えない目撃者』

★★★★☆

Facebookで繋がっている先輩がこの作品について投稿しており、ネットでは中々評価が高いようなので、急遽観に行きました。

内容は、かなりシリアスでハードなサスペンス。
最大のキモは、事件の目撃者が視覚障害者だということ。オリジナルは、色々と設定が違うようですが、韓国映画のようです。

視覚障害者が目撃者というアイデアは、単に作品を面白くする狙いなのか、視覚障害というものを知ってもらう意図があるのかは不明ですが、音声フィードバックを用いた視覚障害者用の文字入力ツールや、盲導犬、スマートフォンの動画チャット機能を使った遠隔地からの支援など、結果的に視覚障害者の生活の一端を見せてくれています。

吉岡里帆さんというと明るく溌剌としたキャラクターのイメージなので、本作の役はもっとピッタリくる別の女優さんがいそうな気もしますが、少なくとも作品を見ている間違和感はなかったので、頑張っていたと思います。

作中の猟奇殺人事件がかなり残虐でR15指定なのですが、もうちょっとマイルドでも作品のコアとなる面白さは表現できたような気はします。

この作品を観ようと思った理由は実はもう一つあります。もうすぐ公開されるインド映画『盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲』を観にいくつもりなのですが、こちらは、盲目のふりをしたピアニストが殺人事件を目撃してしまうというものです。実際には目が見えているだけに設定としてはさらに複雑で、ブラックコメディということなので、作品のトーンとしては、本作とはまったく違うと思います。その違いを確かめてみたかったので、『見えない目撃者』を観ておこうと思いました。


公式サイトは、こちら。
http://www.mienaimokugekisha.jp

『ガリーボーイ』

★★★★☆

ちょっと前に観た『シークレット・スパースター』と、ストーリーの基本骨格が似ています。勝手に、同じ企画から派生した姉妹作品のようなつもりで観ていました。

両方とも、貧困層の若者が音楽で成功していくサクセスストーリーで、家族に夢など見ずに現実的に生きるべきと反対されたり、親に内緒で動画をSNSにアップして評判になったり、最終的に賞をもらうなども共通しています。作品タイトルがSNSにアップするときのハンドルネームという点まで同じです。

ただ、『シークレット・スパースター』の方は、主人公が女子中学生であるのに対して『ガリーボーイ』は男子大学生。あとは、同じ音楽といっても前者は歌い上げる感じのボーカリストで、後者はラッパー。として作品全体のトーンとして前者が明るくコミカルな演出も多いのですが、後者は暗くシリアスな印象に仕上がっています。

これだけの違いで『シークレット・スパースター』はエンターテインメント作品、『ガリーボーイ』は社会派っぽくなるから不思議です。きっと、アカデミー会員は『ガリーボーイ』の方を好むと思います。

こういう映画は、作中のラップが本当にイケてないと説得力がないと思います。残念ながら、私はラップという音楽ジャンルにほとんど馴染みがないので、この点はよくわかりませんでした。

また、ラップはやはりリリックが重要だと思うので、日本語の字幕スーパーになってしまう時点で相当不利なんだろうと想像してしまいます。本作の字幕監修としていとうせいこうさんがクレジットされており、ラップのリリックの"らしい"翻訳に協力しているようです。その出来映えも私にはわかりません。

ラップの発祥はアメリカなのでしょうか。勝手に、貧困や差別、反社会的、反体制的な思想と強く結びついているイメージがありますが、インドのスラムのイメージとまさにピッタリなので、親和性は高いのでしょう。

ちょっとビックリしたのは、主人公がスラムの仲間にそそのかされて自動車の盗難に手を染める描写です。作中では、仲間だけが警察に捕まりますが主人公が共犯であることを秘密にするので、表沙汰になることなく済むのですが、昨今の日本の風潮だと、サクセスストーリーの裏で主人公の過去の犯罪が隠蔽されるという終わり方はどうなの?と問題になりそう。インドでは、そんなに引っかかる人はいないのでしょうか。
しかもこの作品、実話に基づいているので、主人公のモデルとなった実在のラッパーがいます。なので、なおのこと複雑。


公式サイトは、こちら。
http://gullyboy.jp

2019年10月14日月曜日

『空の青さを知る人よ』

★★★★☆

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』のスタッフのよる作品。

『あの花』は、ずいぶん後になって再放送を何となく観た程度ですが、『ここさけ』は映画館で観てよかったので、『空青(?)』も観てみることにしました。

結果的には、とてもよかったと思います。
お約束のように日常生活を丁寧に描く中、非現実的な超常現象の設定がちょっとだけ入っています。個人的には、こういう設定は好みではありませんが、だからと言って作品全体を否定してしまうのはもったいないと思います。

主人公のあおいは高校生で、自己表現が下手で素直じゃなくて、勝手に決めつけて突っ走るタイプで、ある意味いかにもなキャラクター。世界観は全然違いますが、若さのそういった側面を描いているという点では新海誠監督の『天気の子』と共通している気がします。
私の中では『空青』の方がすんなり受け入れられる気がします。でもたぶんセールス的には『天気の子』にはかなわないのでしょうね。何がどうウケるかは、本当にわからないものです。

『天気の子』と言えば、精密でリアルでキラキラした背景が印象的ですが、本作の背景も相当頑張っていたと思います。一瞬写真かと思うほどリアルに描きこまれたものもあり、もしかしてちょっと新海誠作品を意識しているのではないかと勘ぐってしまいました。でも不思議なもので、同じリアルでも新海作品のリアルとはどこか違う印象でした。やはり絵には個性が出るものですね。

声の演技は、松平健さんはわかりましたが、吉沢亮さん、吉岡里帆さんはエンディングを見るまでわかりませんでした。吉岡さんがあおい役ではなく、そのお姉さんのあかね役なのも意外。もしかして、役の順位的にはあかねの方が上なのでしょうか。
あかねの声はほんわか、おっとりした印象で、声優さんだとばかり思っていました。


公式サイトは、こちら。
https://soraaoproject.jp

2019年10月5日土曜日

『ジョーカー』

★★★★☆

残念ながら映画館では観ませんでしたが、クリストファー・ノーラン監督のバットマン3部作はネット配信で観て、あの重たい世界観は印象に残りました。その中で、ヒース・レジャー演じるジョーカーはとても不気味でした。
本作はジョーカーが主人公で、しかもバットマンが出てこないということは、全編重苦しく狂気に満ちているということになります。なので、直前まで観るつもりではなかったのですが、あまりにも前評判がいいので、観てみることにしました。

観てみた結果は、ある意味予想どおり、本当に何の救いもない世界でした。ジョーカーだけが、というよりは、ゴッサムシティ全体が陰鬱で市民の不満がくすぶっていて、社会秩序も個人個人のモラルもすでに崩壊しかかっている状態で、ジョーカーは市民の不満爆発の引き金に過ぎないような感じでした。

ホアキン・フェニックスの演技は素晴らしい。というか、彼の演技なくしてはこの作品は成立しないと思います。笑い方や動作がちょっと奇妙で不気味さを秘めているのですが、もはや脚本では表現できない部分であり、彼の演技によって足されたものだと思えるので。

本作は日本ではR15指定で、アメリカでも映画館が子供に見せないように異例の呼びかけをしたと聞きます。決して暴力や犯罪を奨励しているわけではないでしょうが、この状況に陥ったら犯罪に走るのも仕方がない、と思えてしまうような危険性はあると思います。
まだ、あのバットマンのあのジョーカーの話なので、フィクションとして済まされますが、これが普通の犯罪者の話だったらもっとヤバいかも。
とりわけ今の時代、社会がやや不安定なムードを醸し出しているので、作中のゴッサムシティのようなことが、現実にも起こりうるような気がしてしまいます。

この世界観の映画としての完成度は極めて高いと思うのですが、そもそも私はこういった作風があまり得意ではないこと、観ていてシーンの繋がりやストーリーの展開が一部よくわからない部分があったことなどもあって、★4つとしました。

初日とはいえ、レイトショーなのにお客さんがたくさん入っていました。こういうトーンの作品ではかなり珍しいと思います。

公式サイトは、こちら。
http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/