2011年2月5日土曜日

『経済成長という病 退化に生きる、我ら』

★★★★☆

読み始めて最初に感じたのは、著者の頭の良さと言葉遣いの巧みさ。
本人は経済の専門家ではないと言っていますし、確かにそういう感じはしないのですが、何というか、モノゴトを見聞きしたときに、それについて色々なことに気づき、色々なことを感じ、色々なことを考え、自分の意見を導くということが、高いレベルでできる人なんだと思いました。
言葉遣いは、中には難しい言葉も出てきますが、総じて平易だと思います。ただ、「その言葉をここで使うのか」という表現がたくさんあり、それがニュアンスをわかりやすくしていたと思います。人によってはハナにつくと感じるかもしれませんが、私は結構好き。

内容的には、7割ぐらいは共感できました。
人類が地球に誕生して人口は増加し続けているわけですが、増加プロセスがあるということは、いつかは減少プロセスがあるのは当然で、現に日本は、減少段階に入ろうとしています。そのとき生産も消費もこれまでと比べて減るのは当然なんだから、経済規模は縮小するのが当たり前なのに、経済成長こそが絶対の目標という考え方はおかしいのではないか、というのが著者の主張です。
これを著者は色々な角度から論じます。わかりやすい例で言えば、食品ビジネスの規模を拡大し、肥満が問題になったら今度はダイエットビジネスを興すというのが、無理な価値創造による経済成長絶対主義的な発想。そうではなく、肥満にならないよう日々の食事をつつましくし、それにふさわしいように食品ビジネスの規模を縮小する方が本来やるべきことなのではないか、というのが、この本の言いたいことです。一度贅沢を覚えてしまうと、つつましく控えめな生活に戻るのは大変ですが、著者はこれを"大人として生きる"と表現しています。

共感はできるのですが、今そのおかしな考え方に支配されている枠組みにどっぷり浸かってビジネスに携わっている自分としては、この経済活動を止めるに止められないところもあります。
それでも、現状を否定する視点を得ることができたという点で、この本を読んだ価値はあったと思います。


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