予想していたことですが、その時代のアメリカの状況がわかっていないと、この作品の核心には触れられないのかもしれません。
実際、映画本編の直前に監督のスピルバーグによる簡単な状況解説映像がついていました。そう言えば『レッド・クリフ』にも解説映像がついていたなあ。海外歴史ものは、やっぱりこういう配慮があると助かります。
とは言いつつ、作品世界に漂う雰囲気だけでも味わい深いものでした。
そもそも私は、リンカーン大統領については、南北戦争の終結、奴隷解放、「人民の人民による人民のための政治」など、ごくわずかの知識しかありませんでした。南北戦争が日本の幕末の時期だということも、かなり最近になって知りました。
この作品を観て驚いたのは、日本ではようやく江戸時代が終わろうとするとき、アメリカではすでに議会での多数決によって法律が決められていたこと。だから、リンカーンがやったことは、奴隷制度撤廃のための憲法改正案を通すための2/3の票集め。でも、そのやり方は限りなく脅迫に近く、必ずしもクリーンではなかったみたい。
憲法改正反対派(奴隷制容認派)は、単純に奴隷が必要だと思っていたわけではなく、昨日まで奴隷だった人たちが急に一般市民になると世の中が混乱するので、これを懸念していた人たちもいたようで、この辺りの客観的なものの見方はさすが。
一方で、白人と黒人が人間として平等なのか、方の上で同等の権利を持つだけなのかが大きな議題となる感覚は、この映画を観るまで私自身では全く想像もしていなかったので驚きました。
結局この時は、白人と黒人は同じ人間ではないが法律上同等に扱われるということで憲法改正が実現します。白人と黒人が同じ人間だと言ってしまうと、世間が納得しなかったようです。アメリカでも女性の参政権も認められていなかった時代、キリスト教的宗教観なども相まって、本質的に白人と黒人は別モノ、男性と女性も別モノというのが一般的な見解だったようです。
作品の中のリンカーンは何だか不思議な人でした。情熱的で信念を持った理想主義者のようでもあり、飄々として全てを達観した仙人のようでもあり、周りの空気を読み時にはズルもする策略家のようでもあり…。でも、この作品ではやっぱりリンカーンの一挙手一投足は発言に注目してしまう。そういう意味では、史実と合っているかどうかはわかりませんが、紛れもなくリンカーンという人物を描いた映画だと思います。
公式サイトはこちら。
http://www.foxmovies.jp/lincoln-movie/
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