2013年7月22日月曜日

『風立ちぬ』

★★★☆☆

最近の宮崎駿作品は『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』と、現実からかなり離れたところの、合理性を追求しないタイプのファンタジー作品が続きました。この手の作品がいけないということはないし、アニメーションの絵としての面白さをより自由に追求できるという魅力もあるのでしょうが、個人的にはあまり好きではありませんでした。

そういう意味では、『風立ちぬ』は現実世界が描かれている作品で、とても受け入れやすい作品でした。そんな中にも、要所要所で主人公二郎の夢の中のようなシーンがあって、そこだけはちょっとファンタジック。宮崎駿にとって、ああいうシーンは外せないんでしょうね。

ストーリーとしては、主人公二郎の仕事である飛行機開発と、彼のプライベートである病気を患った菜穂子とのラブストーリーが半々といったところですが、全体の印象としてはラブストーリーの比重が大きかったかなあ。
そう感じたのは、飛行機を設計する上での技術的課題やその解決策といった部分にはほとんど踏み込んでいなかったから。それに比べると、二郎と菜穂子の、お互いを思う気持ちからくる言動はかなり細かく描写されていました。

この作品を観る前は、宮崎駿が戦争をどう描いたのか興味がありましたが、この点については肩透かしを食った感じ。ゼロ戦が戦場で活躍するシーンもなければ、名古屋や東京の空襲のシーンもなし。登場人物のセリフとして戦争観や政治信条が語られることもほとんどありませんでした。これもまた、要はラブストーリーだと感じた原因でしょう。

さて、ジブリ作品では毎度気になる声優陣。
主人公二郎を演じる庵野秀明さんですが、演技については、やっぱり不慣れな感じはありつつ、悪くないとは思いました。ただ、あの声を聞くとどうしても庵野さんのビジュアルが浮かんできて、最後まで二郎のルックスと庵野さんの声が私の中で一つになってくれませんでした。
菜穂子役の瀧本美織さんは、とてもよかったと思います。病を抱えてはいるものの基本的には快活で明るく前向きな菜穂子が、この作品全体の印象をさわやかなものにしていると思うのですが、瀧本さんの声も一役買っていると思います。
その他、西村雅彦、竹下景子、國村隼は、声を聞いて誰が演じているかわかりましたが、後のキャラクターは誰の声だか全くわかりませんでした。

そういえば、この作品では飛行機のエンジン音や地震の時の環境音などを人間の声を使って表現しているとか。映画を観ながら「あれ、変な音だなあ」と思い、ネットかどこかで人の声を使うと書いてあったのをうっすら思い出しました。
面白い試みだとは思うのですが、ジブリのようにお金をかけられる現場で、しかもファンタジー路線ではないこの作品で、わざわざ人の声にするほど効果的だったかどうかは微妙な気がします。

荒井由実の『ひこうき雲』は、作品世界にいい感じにはまっていたと思います。映画のタイトルも『ひこうき雲』でよかったんじゃないかと思ってしまいました。

公式サイトは、こちら。
http://kazetachinu.jp

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