2013年6月1日土曜日

NHK技研公開2013

支払いが義務化されている受信料で運営されているNHKは今も昔も何かと議論の的ですが、特にドキュメンタリー系コンテンツの高いクオリティには、私はお金を払う価値があると思っています。
そしてもう一つ、放送、通信に関わる技術の高さはやはり素晴らしいものがあります。その核心であるNHK放送技術研究所は毎年1回一般公開されており、いつか行ってみたいとずっと思い続けてきました。

今年の展示で特に目立った2大テーマを挙げるとすれば、放送とネットの連携とスーパーハイビジョンでしょうか。数ある展示の中でもこのテーマに関する展示が多かったように思います。

NHK放送技術研究所の建物

NHK放送技術研究所入り口


■放送とネットの連携

今放送中の番組を見ながらタブレット端末やスマートフォンを操作することで、テレビ画面上、あるいはタブレット端末上に番組関連情報を表示できるといった展示が数多く見られました。

番組コンテンツ以外に、それに関連するネット用のデータも同時に配信する、あるいは放送波に番組のメタデータを載せて配信し、そのデータに応じたネットコンテンツを表示するなどの仕組みから「ハイブリッドキャスト」と呼んでいるようです。

放送とネットの連携に関する展示


歌番組に合わせて、スマートフォンやタブレットで演奏したり歌ったりするサービスがいくつか展示されていました。下の例は子供番組。

放送とネットの連携に関する展示


そして歌番組。これは『カウントダウンTV』。ちなみに、NHK技研ですが、日本テレビ、TBS、フジテレビ、WOWOWが1つずつ出展していました。

放送とネットの連携に関する展示


これはスマートフォンやタブレットでテレビ画面を撮影することで番組情報を取得する提案。ちゃんと説明を聞かなかったのですが、要はテレビ画面上にマーカーを表示させ、スマートフォンのカメラでそれを認識させるというものらしいです。
このマーカーはアニメーションがつけてあるのですが、それによって番組の進行状態が取得できるというのがミソのようです。

放送とネットの連携に関する展示



放送とネットを連携させるためには、放送コンテンツに加えてネットコンテンツを作らなければいけません。個人的には、そのネットコンテンツまで放送局が担当するより、APIを公開してネットコンテンツに慣れている人たちに考えてもらえばいいのに、と思っていたのですが、すでにそういう方向性が検討されているようです。

これはteleda+という仕組みの概念図。番組のコンテンツ自体や番組情報などがAPI化され、スマートフォンなどのアプリから利用するという構造が示されています。この展示もきちんと説明を聞くことができなかったので、どのくらい実現性があるものかわかりませんが。

番組関連ネットコンテンツの作成に関する展示


以下3枚の画像は、番組連携アプリ制作支援ツールの画面。アプリはHTML5やJavaScriptなどWeb制作で一般的な言語を使うそうですが、ネットと関連する部分のコードを生成する支援ツールを用意したということのようです。

アプリを作りながら、完成状態を試写することもできるという話でした。ということは番組コンテンツが完成してから放送するまでの間に、このツールを使ってネット用コンテンツを作るということですね。つまり録画番組専用。

放送局側の事情としては、例えば緊急地震速報の表示を隠してもらっては困るといった色々な要求があるので、全く自由にネット用コンテンツを作ってもらうことはできないそうです。このツールも一般向けというよりは放送局から依頼されたネット用コンテンツ制作会社向け。

番組関連ネットコンテンツの作成に関する展示

番組関連ネットコンテンツの作成に関する展示

番組関連ネットコンテンツの作成に関する展示


ということで、放送とネットの連携はきわめて旬なテーマで、テレビ業界もどうやってネットの力を借りて視聴者を取り戻そうか模索していることがよくわかります。ただ、今回の展示を見て気になったのは、録画視聴についてあまり考えられていないこと。

現状では、リアルタイム放送視聴時でないと連携ネットコンテンツは利用できないらしいので、その時間にテレビが見られない人にとっては意味がありません。
ネットコンテンツには、本当にリアルタイムでないと意味がないもの(視聴者の意見を番組内で採り上げるとか)もありますが、歌番組に合わせて一緒に歌うとか、番組内に登場した物品をネットで購入できるといったものであれば、リアルタイムか録画かは本来関係ないはず。

また、例えばドラマ放送中にそのドラマに出演する役者の過去の出演作品がオンデマンドで見られるサービスがあったとして、そんなことをしていたら今放送中のドラマに集中できなくなるという矛盾を抱えてしまいます。
結局、複数のコンテンツに同時進行でアクセスする分、本来の番組コンテンツの肝心のシーンを見落とすリスクが発生するわけで、これに対する解決策であり保険となるのは録画ということになると思います。

いずれにしろ、もう今となっては録画抜きのテレビは考えられないので、最初から録画を前提とした機能やサービスを考えて欲しいと思います。


■スーパーハイビジョン

スーパーハイビジョンについては、あまりお見せするものはありません。4K、8Kなどの高解像度の映像がたくさん展示されていましたが、その綺麗さはデジカメ画像では伝わらないので、ご自分の目でお確かめください。
また、放送局としてスーパーハイビジョンで取り組まなければいけない技術的課題として、カメラ、画像処理チップ、画像圧縮技術、画像伝送技術などがあり、これらの展示もたくさんあったのですが、私にはチンプンカンプンなのでバッサリ割愛させていただきます。

以下は1秒間に120フレームの画像を使用し、よりなめらかな動きが表現できるスーパーハイビジョンの技術です。通常のフレーム数の場合と比較する展示を行なっていました。
個人的には、このコネクターだらけのカメラのメカメカしさがちょっとツボでした(^^;)。

スーパーハイビジョン関連の展示

スーパーハイビジョン関連の展示


■バリアフリー関連

さすがは公共放送のNHK、バリアフリー関連の展示がいくつかありました。

以下は、番組内の音声を手話CGにしてくれるシステム。別々の展示ブースに、パソコン画面上にテレビ画面と手話CG画面が表示されているものと、タブレット端末に手話CGが表示されているものがありましたが、同じシステムだったのでしょうか??

バリアフリー関連の展示

バリアフリー関連の展示


平面的な画像を視覚障害者に伝えるための技術。モノの形状を点字ディスプレイで示し、指先で読み取ります。特定の場所を触れるとそれに応じた音声が発せられます。
また、視覚的には点滅表示で強調するように、点字ディスプレイのピンを細かく動かして強調部分を振動で伝えることができます。

バリアフリー関連の展示


こちらは、3次元空間上でモノの形に合わせて指先に抵抗感を与えることによって、立体の形状を認識させる触覚フィードバックシステム。指先に5点の振動素子が触れていて、立体の形状に合わせて振動するので、ガタガタと凹凸がある様子や面と面がぶつかるエッジ部分が認識しやすくなっています。
…と書きましたが、実際体験してみたところ、エッジはよくわかりましたが、細かい凹凸は正直微妙でした(^^;)。

バリアフリー関連の展示


これは、番組内の音声を高齢者が聞き取りやすいように調整できるシステム。あまり細かい内容は見られませんでしたが、環境音と音声を分離してそれぞれ別々にレベルを調整できるというもののようでした。

バリアフリー関連の展示


 ■その他

複数台のカメラを並べて、映画『マトリックス』のような映像を作り出すシステム。リアルタイムではないようですがすぐに映像が作れるので、スポーツ中継のリプレイなどでの利用を想定しているようです。
ずらりと並んだカメラの足元にはグチャグチャのケーブル(^^;)。

複数台のカメラを連動させたシステム



人物の背景にCGを合成するシステム。カメラの傾きや移動する方向に応じて、違和感のないようにCGを調整してくれます。

CG背景合成システム


ヘリ中継の映像などに、自動的にランドマーク表示を入れてくれるシステム。

ランドマーク表示システム



NHK放送博物館のブースがあり、古いテレビやテレビカメラなどが展示されていました。
これは、日本の工業デザインの歴史が書かれた本などにはよく登場する、SONYのポータブルテレビ。



ということでした。
展示ブースは手作り感もありましたが、展示内容は質、量ともに予想以上に充実していました。平日でもかなりのお客さんがいましたが説明員の他に誘導係のスタッフも多数いて、受け入れ体制もちゃんとしていました(それでも休日は混雑しそうですが)。

内容的には、正直この研究をNHKがやる必要があるんだろうか?と思うテーマもあったり、(研究所という立場なので当然ですが)実務上の運用面やビジネスモデルについては質問しても答えてもらえなかったりすることもありました。
それでも、これだけのものが見られて、私としてはとても満足できました。

なお、NHK技研公開2013のサイトでは展示資料一式がPDFでダウンロードできます。よく読むと、私の理解が間違っている部分もあるかもしれませんが、あしからず。

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